合意形成研究会2.0の概要
代表者 金井 利之
(0)合意形成2.0:この研究は、「人口減少・経済縮小社会での空間利活用の整序政策における合意形成システムの研究」と題しており、我々の研究グループを、省略して「合意形成研究会」と呼んでいる。我々は、2002年からほぼ同じメンバーで研究会を持ったことがあり、ほぼ十年ぶりの再結成である。その意味で、この研究会は「合意形成研究会2.0」と呼ぶことができる。この十年は、我々の身の上にも、研究背景にも色々な変化をもたらしてきた。それゆえに、我々は研究会を再起動した。
(1)前史的背景:戦後日本の空間利活用の整序政策においての合意形成システムは、1960年代の高度成長と各地での住民反対運動を経て、1970年代には一定の安定を見せた。それは、国政という全国レベルでの充分な合意形成を欠いたまま政策決定を行い、実際に影響の及ぶ地元地域レベルで、都道府県・市区町村・地元団体という3層の事実上の「自治行政単位」を媒介に、経済的便宜供与によって、国策への同意を求めるという「合意調達システム」になっていた。
(2)従前の研究動向:こうした戦後日本型の合意調達システムに対しては、地域エゴ・NIMBYや利益誘導政治の問題が指摘されてきた。一方では、経済的便宜供与による同意の「買収」は合意形成とは呼べず、経済的便宜供与に依らない国政レベル・地元地域レベル双方での、本当の意味での合意形成の必要性が主張されてきた。コンセンサス会議・討議デモクラシー・討議的世論調査・市民討議会(計画細胞)など規範的あるいは技法的な研究の蓄積がなされてきた。他方では、こうした自治行政単位の同意を要する合意調達システムを、「遅延するばかりで決断できない」「経済的利権が増殖する」などとして、桎梏や利権を批判し、合意に拠らない「決断」を称賛する主張がなされてきた。その中間に、このような合意調達システムを前提に、いかに安価・円滑に合意をもたらす「人間・社会工学」的技法の研究開発が進められてきた。
今回の申請のメンバーも、2002年より「合意形成研究会」を組織して、5年間にわたって研究を行った。そこでは旧来の合意調達システムについて批判的に分析した上で、より根本から、①合意形成の必要論、②合意形成の体系論、③合意形成の手法論、④合意形成の技術論、⑤合意形成の理論、⑥合意形成の制度設計論という6つの柱に整理して検討を進めてきた。加えて、「合意形成」と「合意」や「意思決定」の区別や「合意」の定義、合意形成の必要性や合意形成に資する手続制度の設計などを検討して、一定の内部的とりまとめを行った。
(3)問題意識:しかし、この十年で、人口減少・経済縮小社会への時代の転換が明確になり、空き家問題、スマート・シュリンクなど、従前の戦後日本型の合意調達システムは機能しないことは明らかになってきた。また、分権改革という戦後日本型の合意調達システムへの改革を目指す方向がありながら、2000年以降は、実質的な集権的圧力の強化が進められ、戦後日本型の合意調達さえ求められない事態も起きている。しかし、(2)の研究は、前世紀の背景の延長線上にあったため、時代の転換による新たな動向を十全にとらえ切れることができない。
しかも、このような情勢を捉えきれないまま、単に戦後型の合意調達システムを批判し、「決められる政治」「ぶれない」「リベラリズム」「官邸主導」「法的に粛々」「選挙で勝った」などと、合意形成を否定して聞く耳を持たない独断的な意思決定が賞賛される始末である。
そこで、従前の研究会での原理的な議論を継承しつつも、人口減少・経済縮小社会における、機能的効果的かつ民主的な合意形成システムの理論を構築する必要があると思う次第である。これが「合意形成研究会2.0」の基本的な問題意識である。